5.絞りの故障モードとその影響

  1. 加工の最後は「絞り」に入ります。
    子供の頃の工作を思い浮かべて見ましょう。材料はボール紙や発砲スチロールなどを使って、夏休みの宿題を作ったのではないでしょうか?
    これらの材料を切って、穴を開け(せん断)、折り曲げて(曲げ)で作りました。
  2. しかしながら、今から説明する「絞り」はできませんでした。絞りは、アルミ板、銅板、鋼板などの板金だけにできます。特に、鋼板特有の延びる性質(延性)を利用して加工します。
  3. 絞りの故障モードは、変形だけです。これによる故障の影響は薄肉化、端部のひずみが代表例です。次に「生活シーンから持ってくる」を実践してみましょう。
    たとえば、ボール紙を四角形に切って、中央部を指で押してみましょう。図表-8における図⑭のように四隅が持ち上がると思います。

    【図表-8】絞りの故障モードとその影響
  4. 今、皆さんはここまで読んでどうされましたか?読んだだけですか、それとも直ぐに実行(実験)してみましたか?
    技術者としての分かれ目がここにあります。「ふぅーん」で終わらせてしまう技術者、「そうかなぁ、今、やってみよう!」と実行する技術者。ここで差ができてしまうのです。必ず、実験してくださいね。
  5. また、絞りに関する「故障の影響」ですが、図表ー9に示すように、身近にあるアルミ製の換気扇カバーを良く観察してみましょう。絞り形状周辺の肉余りによる端部にひずみが発生していることが眼で理解できます。
    このシワの気持ちになれることが重要です

    【図表-9】アルミ製の換気扇カバーに見られる絞り加工のひずみ
  6. 最後に、図表ー10を見てください。
    私が若き設計者のとき、製造出身者のオジサン講師から威圧されて、製造だけに有利な加工法を教育されました。下図の水色の部分です。
    しかし、設計側にも主張があるのです。 本来、製造法を考えるのが製造部の役割です。日本では加工図面を作りますが、アメリカは検査図面です。したがって、少なくとも、アメリカでは製造法を考えるのが製造部の役割です。
    ただし、日本もアメリカも無責任図面は論外です。
  7. 下図の中央部(濃い青色)を設計者は学びましょう。これが現在の「モノづくり」の神髄であると、当事務所は思っています

    【図表ー10】 現在の設計者が学ぶ加工法とは

おつかれ様でした。また、お会いしましょう!