3. 事例: 「4M」の「Machine」に関する事故
- それでは、インタラクションギャップをより一層理解するために、4Mの中から「Machine」を選択して、「事例:Machineに関する事故(シュレッダーで指切断)」を解説します。
- 今では当たり前となった「個人情報保護法」、・・・2005年4月1日から施行されました。この法律がきっかけで、企業や学校では書類を細かく裁断する「シュレッダー」が爆発的に売れました。ちょうどその頃、「独立」、「起業」、「個人事業」、「1円創業」、そして、「SOHO(注1)」の単語が出現しました。
注1: Small Office/Home Officeと呼ばれるもので、小さな会社(事業所)や自宅でコンピュータや、ネットワークを利用した仕事場である。 - シュレッダーメーカーは、企業や学校のほかに、この「SOHO」の市場にもビジネスチャンスを開拓しました。業務用でフロアタイプの大型シュレッダーを、小型化や低コスト化に「変更(≒マイナーチェンジ)」し、SOHOへの大量販売が加速されました。
- さて、この「SOHO」ですが、そこで働く人々は、一家の大黒柱となっているご主人と彼を支える奥さん、祖父や祖母も事業を手伝っている場合が典型的な例です。SOHOであるからこそ、忘れてはならない存在が「子供たち」の存在でした。
そして、事件が起きました。 - 個人情報保護法が施行されたちょうど1年後の2006年3月、静岡市に住む2歳の女児がシュレッダーに両手を挟まれ、指9本を切断しました。同年7月、東京都の2歳の男児が左手2本の指を切断しました。
日本の有名な調査機関によれば、全国で幼児の指切断事故が相次いで発生しており、機器でいえば、16銘柄中7銘柄が同事故が起こる可能性があるといいます。
また、シュレッダーの国内基準は、シュレッダーとしての電気用品安全法の技術基準はあるものの、「可動部への接触」に関しては、大人を対象にしているとのことです。 - ここで筆者は、不吉な三つの事象に気付いてしまいました。
その一つ目ですが、それは、常に、社会的に弱い者が犠牲者になるのは何故なのでしょうか?
二つ目は、事故の度にマスコミの前で頭(こうべ)を垂れるのは、社長、役員、品質管理部(部長)です。設計者は、設計部長はどうして出てこないのでしょう?
最後の三つ目ですが、・・・
どうして、事故に関する設計書が開示されないのでしょうか?不思議の国、日本、不思議の国の日本企業です。 - それでは、シュレッダー事故に関する基本的な「××変更」を抽出してみましょう。
前述の通り、業務用フロアタイプの大型シュレッダーを、そのまま、小型化と低コスト化への「変更」を施しました。次に、インタラクションギャップを図表ー4から抽出してみましょう。
【図表ー4】 - 本項ではMachine(機械)を中心に抽出してみましょう。
① 自動化:「自動化」と「精度」のインタラクションギャップに「何故、変更しなくていいの?」が潜在する。安全性確保のための自動停止と、その精度が悔やまれる。
② MachineとMan:Machine内の安全稼動に関する「自動化」と、Man内の「若年層」に関するインタラクションギャップに、「ここが変化する!」が潜在する。
③ MachineとMethord:この間のインタラクションギャップに、「子供の目線」で作成した3D-FMEAが存在すれば、事故は起きなかったと判断する。また、指切断のFTAが存在すれば、事故は起きなかったと判断する。
④ MachineとMethord:Machineとコスト間のインタラクションギャップに、「何故、変更しなくていいの?」を判断する、低コスト化手法(VE、QFD、品質工学など)が必要である。
⑤ MethordとMaterial:この間のインタラクションギャップに、シュレッダーの挿入口から入る全てのMaterialに対して、「何故、変更しなくていいの?」が潜在する。 - 一般的に社告・リコールを発生した企業の社長や役員が記者会見をすると、「この度の事故は想定外だった!」と発言する場合が多く見られます。
本当に、「想定外の事故」はあるのでしょうか?
学術的な「発明」や「発見」は別にして、職人の世界に「想定外トラブル」はありません。全ての事故は、考えが浅はかである場合や、勘違い、そして、本コラムで何度か掲載する図表ー5に示す「手抜き」の設計フローです。
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おつかれ様でした。また、お会いしましょう!