「匠のワザ(1)から(6)」を習得し、それに関する修行を積めば、トラブルを撲滅できる「設計職人」になれます
また、設計審査でも承認と却下の判断が容易に下せます。
今回は、その一番目に相当する「匠のワザ(1)」を学びます。

1.トラブル三兄弟の「新規君」

  1. 冒頭の「匠のワザ(1)から(6)」ですが、これに関しては、前回の「D06.『百害あって一利なし』のFMEA」をキチンと理解してください。ここで、「匠のワザ(1)から(6)」ってなんだろう?となると、ここから先、トラブルを絶対に起こさない技術者へと導く上で、とても大きな「壁」となってしまいますよ

  2. 『私は隣国の自動車メーカーに勤務するEV(電気自動車)のPMです。』
    (PM:プロジェクト・マネージャーまたは、プロフェショナル・マネージャー)
    『今までに経験のないEV(電気自動車)開発の第1次試作を前に、各部門へ「トラブル発生の予測箇所」をリスト化して提出するよう指示しました。しかし、一週間経った今でも無回答です。どのようにして、トラブル予測を募るか?國井先生にコンサルテーションを依頼したく思います。』

  3. 数年前、隣国自動車企業が同時5車種のEV開発をするとのことで、超極秘扱いでコンサル契約しました。その5車種の内、アジアの農村地区で使用する小型EVの開発支援を依頼されました。

  4. 回答は簡単でした。「匠のワザ(1)から(6)」のうち、最も重要な匠のワザ(1)、つまり、「トラブル三兄弟」を駆使すれば容易に解決します。トラブル三兄弟とは、当事務所が推進している「トラブルの潜在箇所」で、「新規技術」、「トレードオフ」、「××変更」の3カ所を「3兄弟」と称してトラブル未然防止活動の礎(いしずえ)としています。これ無くして、FMEAやDRなどの設計行為は不可能としています。

  5. 一般的なセミナーでは、設計品質向上のために、FMEAやDR(デザインレビュー、設計審査)のやり方や運営の仕方を指導していますが、当事務所では、FMEAやDRを有意義な設計プロセスとなるよう、その基礎知識や修行部分に注力して指導しています。因みに、これをメイン・コンセプトしているのは当事務所だけです

  6. トラブル三兄弟とは当事務所のクライアント企業の協力を得て、トラブル要因の分析をした結果が図表ー1です。(件数分析)
    軍需は別にして、家電品や自動車などの民需商品の場合、トラブル要因は以下のところに、なんと98%が潜在しているのです。

    ① 新規技術:32.7%
    ② トレードオフ:32.7%
    ③ ××変更(ペケペケヘンコウと呼ぶ):32.7%


    【図表ー1】

  7. これは、前述「匠のワザ(1)」、通称、「トラブル三兄弟」と呼びます。設計品質のコンサルテーションに関して、当事務所のクライアント企業へのFMEAやDRを賢く運営するための礎(いしずえ)であり、設計者としての一修行項目として指導しています。

  8. 日本の自動車企業を初め、多くの大企業でFMEAが役に立たないどころか、形骸化し、社告・リコールが増加している一要因が、この「匠のワザ」の習得無くして、または、修行無くして、いきなりFMEAという道具を使うことが問題です。このような「虫の良い話」は、職人の恥です。


  9. トラブル三兄弟の「新規技術(新規君)」とは・・・
    それではここから、三兄弟を「一人ずつ」詳細に紹介していきます。トラブル三兄弟の一人目が「新規技術(新規君)」です。
    ある技術者は、安易なパイオニア精神からQCDに係わる新規技術を、いきなり開発商品に導入してしまう場合があります。そうすると、技術の神様はそれを許してはくれません。98%中の約33%の割合でトラブルを引き起こすのです。

  10. 例えば、以下のようなトラブル事例があります。
    ① カーボンファイバ製航空機の大幅な開発遅延(B787)
    ② こんにゃくのゼリーで幼児や高齢者が窒息死
    ③EV(電気自動車)に関するバッテリ―の各種不具合(充電時間や距離など)
    ④ ソフトコンタクトレンズ:角膜障害の発症。
    ⑤ おしり洗浄便器:洗浄の湯水で火傷した。トイレが水浸し。
    ⑥ 自動改札機:切符の搬送不能。磁気切符のデータ読取不能
    ⑦ ETC:料金所のゲートが開かない
    ⑧ 弾力性のある履物:エスカレータに挟まれる。
    ⑨ 回転ドア:ドアに体が挟まれる。
    ⓾ 流れるプール:強力な排水力が幼児を吸い込み、溺死した。
    ⑪ TVゲーム:手元操作機が手元から外れてTV画面損傷。
    ⑫ ハイブリッド車:油圧ブレーキと回生ブレーキを制御。ブレーキが利かない。

  11. 新規技術に関する自社の絵辞書とは・・・
    前記のように、いくら当事務所の品質指導に関する礎(いしずえ)と言っても、毎日使う単語ではないし、形骸化やマンネリ化する場合が多々あります。そこで、少しでもモチベーションを維持するために、当事務所では、図表-2のように、その企業が経験したトラブルの「絵辞書」を作成します。さらに、この絵辞書自体の形骸化を回避するために、「絵」は6か月毎に更新します。これは、当事務所のクライアント企業である接着剤企業での成功事例です。



    【図表ー2】

  12. 設計ツールのオールリセットとは・・・
    大手自動車企業が発するシステムや手法やツールは、その企業では有効なようですが、日本企業の99.6%を占める中小企業では不要です。むしろ、「百害あって一利なし」となっていませんか?
    そこで、一度、オールリセットしてみませんか?ただし、オールリセットした後の行為が重要です。
    本コラムでは、品質に係る設計ツールのリセット後も、同時にご案内しています。