【質問-23】
私の兄は建築士です。
森と調和する美術館や三世帯同居の一戸建ての設計では、そのコンセプトや予算に応じた規模、そしてメンテナンス箇所や強度計算を含んだ「設計書」を作成し、コンペ(建築設計の競技)に臨みます。
どうして、機械設計に「設計書」の単語がないのでしょうか?

  【回答-23】
おそらく、実務経験のない学者がそのような設計フローの学術書、もしくは教科書を作成したのだと思いますよ。
それを実務経験の浅い執筆者が転記し、長年の間に日本企業から「設計書」が無くなったと思います。
それでは、本コラムであなたの疑問を解消しましょう。

 寿司屋や大工はその親方が弟子を「修行」という長くて辛い基本姿勢を経験させ、日々指導しています。たとえば、寿司職人といえば、「飯炊き3年、握り8年」という言葉がある通り、修行は10年以上かかると言われています。しかし、技術者の場合、その「修行」がまったくありません。その証拠に「いきなり製図」です

何度も繰り返される上記センテンスに「もう、うんざり!」という読者がいると思います。したがって、このしつこいセンテンスは今回でもう、おしまい!

しかし、それほど重要なセンテンスであることだけは理解してください。要は、設計者が職人であるならば、他の職人同様に修行が必須であり、料理人や大工のように、仕事には基本姿勢、基本のフローが存在するように、設計者にも基本姿勢や設計フローが存在しています。

どの職人も若者には、手抜きのフローなど指導するはずがありません。正統派のフローを徹底的に仕込みます。それが、前述の「飯炊き3年、握り8年」です。しかし、設計者の多くは、いきなり「手抜き」を教えられているような気がします。これでは、社告・リコールは当たり前!

若いときに、一度「手抜き」を覚えてしまうと、もう、二度と「正統派のフロー」には戻れません。職人もアスリートも皆同じです

今回は、若き設計者として、「正統派の設計フロー」を学びましょう。

1.商品(部品、システム、生産など)開発のフロー

  • 図表23-1は、商品開発、部品開発、生産開発、システム開発などに関する一般企業における開発フロー(設計フロー)です。新人設計者のあなたに注目しておいてほしい項目は、以下の通りです。
    ① 開発とは企画から始まるもの
    ② 企画書の次には仕様書がある
    ③ 企画書、もしくは、仕様書を具現化したものが設計書
    ④ 設計書を審査するのが設計審査
    ⑤ 設計審査で承認された後に、やっと、構想設計、試作図面となる
    ⑥ 試作は実験の場ではなく、確認の場
    ⑦ 試作での確認がとれた後、やっと量産図面


    【図表23-1】商品、部品、生産、システムなどの開発フロー
  •   さらに要点をまとめると、日本におけるセミナーや書籍にも記載がない日本企業の弱点があります。それが、図中の「設計書」です。日本企業の多くに設計書が存在していないのです。設計書が書けない設計者(?)、摩訶不思議。

2.設計者のアウトプットは設計書と図面

  • 本コラムシリーズのF14の「スカウトされない日本人設計者」は、衝撃的な記事でした。それは、世界の技術スカウトマンは、日本人の研究者や生産技術者をスカウトしていますが、設計者はスカウトしないという事実です。その原因は、以下の通り。日本人設計者は、・・・

    ① 公差計算ができない
    ② コストを見積れない
    ③ 設計書が書けない

    これらすべては、「設計書が書けない」で括れます。
  • 次に、図表23-2を見てください。同じ設計者でも、建築士となると設計書を作成しています。その対価として、設計料を得ています。図面は設計書に付随するドキュメントであり、設計料の主たるものではありません


    【図表23-2】設計者のアウトプットは設計書と図面
  • 企業の設計者において、給料の基本的源泉は、設計書と図面です。このアウトプットなしに給料を得ているとしたら、とんでもない「給料泥棒」でしょう。設計書とは、設計者にとって最重要であり最低限のアウトプットです。
  • もしあなたが設計者であり、設計書が書けないとしたら、それはラーメン屋でラーメンができないのと同じです。大事件です