【質問-36】
私は韓国の自動車メーカーに勤務する日本人設計者です。先月、日本の某大手企業の技術セミナーに出席しました。そのセミナーの一部で、某講師が「現地化設計とは、現地に行って設計すること」だと説明していました。
そこで、私が、「それは違うのでないでしょうか?あまりにも単純すぎませんか?」と質問したのですが、その講師は考えを曲げませんでした。「現地化設計」に関する國井先生のお考えを教えてください。

  【回答36】
「設計」を「生産」に変え、「化」を取り除くと「現地生産」となります。この説明ならば簡単ですね。前記講師の回答を引用すれば、輸出ではなく現地に工場を建てて生産することです。
これ正しく、「現地生産」ですね。ここで、少々ややこしい単語がありますので紹介しておきましょう。
それは、「ノックダウン生産」です。まずは、ここから解説しましょう。

  • ノックダウン生産とは、もともとはライセンス生産のことです。その代表的な例が、図表36-1に示すジェット戦闘機F15です。






  • 自衛隊がこの戦闘機をアメリカから輸入しようとしても、船便では無理ですし、自力で飛行してくることもできません。
    なぜなら、F15の飛行距離は約5000kmですし、東京とニューヨーク間の距離は約10000kmです。途中、故障すれば海に落下。なんと、一機が約100億円です。


  • したがって、民需商品においてもノックダウン生産とは、すべての部品、もしくは、主要部品を諸外国から輸入して、現地で組立てて完成品とする生産方式のことです。その民需における代表的な商品は自動車です。


  • 完成品としての車を現地へ輸出すると、輸送コストが大きくなり、また、損傷品も発生して損失費が増加します。
    そこで、ばらばらの部品または、小組立体(Sub Assembly)を現地へ輸送して組立するという方式が誕生したのです。


  • その現地とは、具体的に言えば、低賃金の開発途上国の場合が多く、国の政策により、完成品よりも部品の関税を低くします。
    そうすることで、組立や完成品検査作業による現地での雇用促進を図ることができ、完成品のコスト低減にも寄与する訳です。


1.現地化設計とはまずは国内生産のこと

  • ここで本題に入りましょう。「化」を省いた「現地設計」なら、前述同様、現地で設計行為を成すことです。それでは、「化」を含んだ「現地化設計」とは・・・?


  •  まず、「現地」とは、海外であると理解している設計者がいますが、それは短絡的です。現地とは、まずは「国内」のことです

    仮に、埼玉県にメイン工場がある企業が存在するとした場合、多くの日本企業が日本国内であっても、隣接した県ではなく、遠く離れた他県に生産拠点地を設けています。


  •  これが企業の常識となった「リスク分散経営」です。リスク分散の「リスク」とは、大地震や大型台風や大停電や伝染病などを意味します。

    日本国内だから、設計に関してはどこの地方でも、どの県でも条件は同じと考えている設計者がいますが、修行が足らないと思います。
    本コラムの第35回に登場した老舗の日本料理店、「大和屋」で修行してほしいと思います。(F35:見える化×見える化」でバカになった日本人


  • たとえば、鋼板材料のSPCCやSECC、ステンレス鋼板のSUS430やSUS304などの汎用性のある一般材料ならば、日本中のどこの地方でも容易に入手できると思います。

    しかし、チタン合金や〇〇合金となると、少々、入手困難になります。最も入手性に困るのは、なんと樹脂材料です。東レ株式会社のポリアセタールの〇〇番や、デュポン株式会社のポリカーボネートの△△番と言う具合に材料指定をするので、前述の特殊金属より入手性が困難になります。


  • このような地方の事情や材料の入手性を熟知しないで、無責任な材料を選択することは、設計者としては修行不足です。

    もう一つの例を挙げてみましょう。


  • 人間の手の指からは油が出ています。これを手油といいます。手油があるからこそ、指紋が採取できるわけです。さらに、この手油には塩分が含まれており、この手で鋼板などの金属に触れれば、一気に錆びます。ステンレスでも容易に錆びてします。

  • 中には、手袋を装着すれば良いのではという能天気な設計者もいますが、超精密部品は、素手で作業するものです。料理も同様、ゴム手袋やビニール手袋は装着しません。

    反論のある方は、ビニール手袋をした寿司屋に行ってください。そこは回転寿司屋です。「飯炊き3年、握り8年」の合計11年間の修行もない店員さんが、ビニール手袋をして、直ぐに寿司を握ってくれます。
    でも、おいしいですよね!(笑)


  • 世界でもっとも手油の中の塩分が少ないのは、何と、長野県人。しかし、代々長野県で生まれ育った女性だけです。したがって、岡谷、諏訪に超精密工業地帯が誕生し存続しているわけです。
    逆に、もっとも塩分が多い県は〇〇県です。(書けません!)


  • このような状況も知らずに、現地化設計を考慮しない設計者がいたとしたら、それは、とても能天気な設計者です。
    なぜなら、袋インスタントラーメンもカップラーメンも、地方毎にスープの味を変えて現地化設計が成されているからです。


  • このような事を考慮しなければ、その設計者は、インスタントラーメンの企画も設計もできません。